2015.01.15 Thursday
小話
銀嵐ノ霊峰に林檎を採りに行って来る、と言って午前中に出かけたクロサイトは、夕方になって戻ってきた。いつ行っても寒いその地はどんなに防寒しても凍える様で、冷えきった体を温める為に茶でも飲もうと両手に息を吐きながら彼が診療所に隣接する宿の厨房に向かうと、この時間に忙しく食事の用意をしている女将の姿とは別の大きな背中がそこにあった。
「あら、お戻りになったみたいですよー」
「あ、ちょうど良かった、お帰りなさい」
「……夕飯のつまみ食いでもしていたのかね?」
「何でそうなるんですか、違いますよ!」
今日は休息の為の日にしているのでそこに居る彼、ギベオンが何をしていても自由なのだが、既にその肉体はこのタルシスに来た時に比べて随分と引き締まった体をしているとは言え油断すると太る体質である彼は今でも食のコントロールを必要としている。基本的に間食さえしなければ問題無いのでつまみ食い程度なら今の様に口頭注意じみた事をするけれども、どうやら違ったらしい。
「クロサイト先生が冷えきってお戻りになるでしょうから、
ミルクティーを淹れていたんですよー」
「ちょうど今出来ましたから、どうぞ」
「……ありがとう」
ギベオンは手元にあった小鍋から茶漉しを使ってマグカップに淹れると、湯気の上がるそのミルクティーをクロサイトに寄越した。断る理由が無いクロサイトは林檎が入った籠を台に置き、有難くカップを受け取ると、息を吹きかけ冷ましながら一口啜った。その瞬間、目を見開いてしまった。
「どうですか、美味しいですか?」
「……君、このレシピを知っていたのかね?」
「いえ、知らなかったので女将さんと一緒に模索してました」
「こんなお味でしたよね。懐かしいですねー」
「………そうですね」
マグカップに入っているミルクティーは、懐かしい味がした。昔、クロサイトの師が存命であった頃、寒い夜に決まって振る舞ってくれたミルクティーがこの味だったのだ。
弟と共にその日生きる事で精一杯であったクロサイトをたまたま見かけて声を掛け、診療所に連れてきてくれた師が淹れてくれたミルクティーは、茶の芳醇な香りと濃厚なミルクが程よく混ざり合って冷えた体の芯から温めてくれた。医者になりたいと言って拝み倒し、弟子入りさせて貰った後も、君はともかくセラフィ君は栄養が足りていない様だからと良く淹れて飲ませてくれた。師の死後に思い立って自分で淹れてみたものの師が淹れてくれた様な味が出せなくて、それきり飲まなくなってしまったが、今唐突に出されたミルクティーは、殆ど同じ味がした。
「茶葉を水から煮出してミルクを入れて沸かしたんですけど、
もっと濃かったって女将さんが言うんで、クリームを入れてみたんです。
そしたら当たりだったみたいで」
「ああ、なるほど、クリームか」
「タルシスのクリームは水牛のクリームですから、調整が難しかったですけど……
でも合格点出して貰えて良かったです」
へへ、とはにかむ様に笑ったギベオンは、どうも女将にクロサイトの師が淹れたミルクティーの話を聞いて、茶が趣味であるから自分も淹れてみたいと思ったらしかった。妙なところで拘る子だ、とクロサイトは思ったが、折角のご馳走が冷めてしまう前にマグカップに残ったミルクティーを一気に飲み干した。カップから口を離した後に出た安堵が混ざった一息を聞いたギベオンが褒めて貰った子供の様な顔をしていて、彼は思わず苦笑してしまった。
クロサイト先生のお師匠さんのバーブチカさん(初代メディック)も紅茶を淹れる名人という設定があったので。
水牛乳は牛乳よりも乳脂肪分が多く、クリームも多くとれるんだそうです。タルシス水牛うってつけやん!!!!
「あら、お戻りになったみたいですよー」
「あ、ちょうど良かった、お帰りなさい」
「……夕飯のつまみ食いでもしていたのかね?」
「何でそうなるんですか、違いますよ!」
今日は休息の為の日にしているのでそこに居る彼、ギベオンが何をしていても自由なのだが、既にその肉体はこのタルシスに来た時に比べて随分と引き締まった体をしているとは言え油断すると太る体質である彼は今でも食のコントロールを必要としている。基本的に間食さえしなければ問題無いのでつまみ食い程度なら今の様に口頭注意じみた事をするけれども、どうやら違ったらしい。
「クロサイト先生が冷えきってお戻りになるでしょうから、
ミルクティーを淹れていたんですよー」
「ちょうど今出来ましたから、どうぞ」
「……ありがとう」
ギベオンは手元にあった小鍋から茶漉しを使ってマグカップに淹れると、湯気の上がるそのミルクティーをクロサイトに寄越した。断る理由が無いクロサイトは林檎が入った籠を台に置き、有難くカップを受け取ると、息を吹きかけ冷ましながら一口啜った。その瞬間、目を見開いてしまった。
「どうですか、美味しいですか?」
「……君、このレシピを知っていたのかね?」
「いえ、知らなかったので女将さんと一緒に模索してました」
「こんなお味でしたよね。懐かしいですねー」
「………そうですね」
マグカップに入っているミルクティーは、懐かしい味がした。昔、クロサイトの師が存命であった頃、寒い夜に決まって振る舞ってくれたミルクティーがこの味だったのだ。
弟と共にその日生きる事で精一杯であったクロサイトをたまたま見かけて声を掛け、診療所に連れてきてくれた師が淹れてくれたミルクティーは、茶の芳醇な香りと濃厚なミルクが程よく混ざり合って冷えた体の芯から温めてくれた。医者になりたいと言って拝み倒し、弟子入りさせて貰った後も、君はともかくセラフィ君は栄養が足りていない様だからと良く淹れて飲ませてくれた。師の死後に思い立って自分で淹れてみたものの師が淹れてくれた様な味が出せなくて、それきり飲まなくなってしまったが、今唐突に出されたミルクティーは、殆ど同じ味がした。
「茶葉を水から煮出してミルクを入れて沸かしたんですけど、
もっと濃かったって女将さんが言うんで、クリームを入れてみたんです。
そしたら当たりだったみたいで」
「ああ、なるほど、クリームか」
「タルシスのクリームは水牛のクリームですから、調整が難しかったですけど……
でも合格点出して貰えて良かったです」
へへ、とはにかむ様に笑ったギベオンは、どうも女将にクロサイトの師が淹れたミルクティーの話を聞いて、茶が趣味であるから自分も淹れてみたいと思ったらしかった。妙なところで拘る子だ、とクロサイトは思ったが、折角のご馳走が冷めてしまう前にマグカップに残ったミルクティーを一気に飲み干した。カップから口を離した後に出た安堵が混ざった一息を聞いたギベオンが褒めて貰った子供の様な顔をしていて、彼は思わず苦笑してしまった。
クロサイト先生のお師匠さんのバーブチカさん(初代メディック)も紅茶を淹れる名人という設定があったので。
水牛乳は牛乳よりも乳脂肪分が多く、クリームも多くとれるんだそうです。タルシス水牛うってつけやん!!!!